Randonneur Style / French Classic
「700Cスタイル」と題して、古いロードレーサーをいろんなスタイルに料理する過程を連載してきましたが、前回からだいぶ間が空いてしまいました。 それというのもパーツの変遷があまりに多くてスタイルが一定しなかったからなのですが、このへんでいったんまとめて、その後の魔物との戦いについて書いておかなくてはなりません。 (って、べつに誰が頼んでるわけでもないですが)
そもそも、なぜそんなにパーツを取り替えるのか。と、自問してみる。
答えは簡単。 使ってみたいパーツが、まだそこにあるからだ。 手に入れたいと思うパーツが、まだあるからだ。 これはもうタチの悪い持病なのであって、財布とカミさんの顔色を窺いながら、じょうずに付き合っていくしかないのである。 これはしょうがない。
ところがもうひとつ、パーツを取り替えなければならなくなる理由がある。 「寸法」である。 スーツの胴回りが歳とともに変わってしまうように、自転車の寸法も体に合わせて変えざるをえなくなるのである。
歳とともに筋肉の付き方も循環器の性能もかわり、走り方もかわり、走りにいく場所も変わる。 そのままの寸法ではあちこちが合わなくなってくるものだ。 体を道具にあわせろ、といえるのは成長期の若いうちだけである。
さて、いったん完成を見たティファニー・スタイルのスポルティーフ。 スタイル抜群で、エレガントで、ちょっと古風な横顔をもつなかなかの美人なのだが、これが長い道を付き合っているとなぜか疲れるのである。 どうもスピードもでない。 いったいなぜか? やはり、いろんなところの「寸法」である。
あまり舗装の良くないサイクリング・ロードや街道の路肩を走るには、カンカンに高圧のチューブラー・タイヤではちょっと神経質になりすぎる。 ちょっとしたギャップが気になり、ざらざらの舗装が気になる。 きれいな道しか走れない。
そして踏み込んでまわしていくとすぐに乳酸がたまってしまう、このアシ。 昔はもうちょっと無理が利いたんだけどなあ。 もうケイデンス(回転数)で稼いでいく乗り方でないと、まったく距離が走れなくなった。 それには、いまのギア比は高すぎる。 アウター52Tでは平地でもトップ・ギアに入らない。 追い風でもまだ重たいくらいだ。 強い向かい風の時には思わずインナーに落としてしまう。 ストロングライト93のインナーは最小で38Tまで。 もっと小さいインナーがないと、とても山には行けない。 ううむ、情けないけれどしかたがない。 長年の不摂生とトシにはそう簡単には勝てそうにないな。
さらに、どうしても首の後ろ、背筋が凝ってくるのはなぜか。 ハンドルがすこし遠すぎるようだ。 サドルにどっしりと座って足をくるくる回そうとすると、肩の位置が後ろに下がって腕が伸びてしまっているのだ。 ステムを短くしてもっと楽な姿勢がとれるようにしないとだめかもしれない。
しばし悩んだ末、なるほど人も自転車も見た目だけではダメだなあ。 と、ようやく気づいたのでありました。 気づくのが遅いよね。
しかたがない。 ティファニー・スタイルは、そのエレガントな姿を想い出のなかにしまいこんで、サヨウナラをするしかない。 涙をのんで、バイバイだ。 そのかわり気に入ったパーツしか使わないぞ。 と、心に決め、気合をいれて入札に臨むこと数ヶ月。 ほとんど、もう一台組み上げられるほどのパーツを集めてしまったのでした。 あらら。 でも、まあ昨今の新車価格を考えれば、お安いもんです。
そしてヤスリとコンパウンドで格闘することしばし。 できあがったのは、いわゆる 700Cランドナー というスタイル。 太めの 700C タイヤ、低いギア・レシオ、ランドナー・バーに亀甲パターンの泥よけ。 これにフロント・バッグをぶら下げれば、どこから見てもランドナーである。
かりにもホルクス・レーサーとして生まれたこの自転車を、ついにランドナーにしてしまった。 横尾さんもビックリ。 それよりビックリなのは、 700C サイズの自転車はこれほど変幻自在なのだ、ということである。 26HE サイズではレーサーにはなれないし、ましてや 650サイズはランドナーにしかなれない。 しかし700Cならレーサーにでもランドナーにでもなってしまう。
ロード・レースを中心にして進歩してきた自転車の歴史を思えば、それは当然のことなのかもしれないけれど、 昔も今も700Cサイズのホイールをはいた "700C スタイル" が、いちばんツブシが効くスタンダードなのである。 時代が変わっても、そのことはちっとも変わっていないんじゃないだろうか。 700C サイズのフレームを一本あつらえてしまえば、それはどのようにも仕立て直しがきく。 どうやら、そういうふうに自転車というものは成り立っているようである。
さてこの 700Cランドナー、見た目はどことなく平凡でちょっとつまらないけれど、ちゃんと磨き上げればなかなかの色気を見せてくれる。 鏡のようにパーツが光り、夕日や緑がそこに映る様などを見れば、なかなかの横顔だ。 けっして目を引く美人ではないが、どこにでも連れていける相棒である。
さあ、ようやくこれで「魔物」との戦いは終焉を迎えるのだろうか。 あんまりあてにはならないけれど、まあひとまずは、しばらく休戦のようである。
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