ウィングナットの記憶
ウィングナットというのは文字通り蝶ネジのことですが、自転車のハナシでウィングナットというときには、ホイールを固定するためのこういう懐かしいネジのことです。
ウチのサンプレ製のウィングナットは4つのうちひとつを折ってしまったので、すでに使いものにはなりませんが、 それらしく飾り台にのせてみると、さも意味ありげなモニュメントのようです。
その昔、カンパニョーロがカム機構のクイックレリースを発明するまでは、レースでもウィングナットが使われていたそうです。 タイヤを交換するときには、ぐりぐりと手でネジを回してホイールをはずしていたんですね。
ボクらがサイクリングに夢中になっていた1970年代には、すでにクイックレリースのハブは出回っていたのですが、そう簡単に手が届くようなものではありませんでした。
手に入れた自転車にドロップハンドルを取り付け、ハブナットをはずしてウィングナットに付け替えることが、ボクらにとっては、とにかくカッコよかった。 左右非対称のクイックレリースよりカッコいいんだ、なんていうハナシもあったくらい。 まあ負け惜しみだったんでしょうけれど・・・いやまてよ。 あらためて見直すと、マジでカッコイイかもしれませんね。
真鍮製で薄くできたユーレー、カッコはいいけど頼りないサンプレ、ワイマンのでかいやつ、あるいは、ちょっともったりしたスギノ、というあたりが当時の自転車屋さんにあったラインナップでした。 片側のウィングが長くなったレバー式のものとか、ブランド不明のものもいろいろとあって、値段も手ごろで、子どもでもお小遣いでコレクションができるものでした。
なかでもルネルスに使われていた Bell のウィングナットがどうやらいちばん上等らしいのですが、そんなもん当時の私はちっとも知りませんでしたっけ。
このサンプレは、左うしろ用のウィングの加工がいいかげんで、どのセットもいびつな形になっていたのを憶えています。 使われている軽合金も柔らかいもので、ホイールにねじ込んで命を預けるには、なんとも頼りないものでした。
きっと当時のサンプレックス社は、デザイナーの想いが材料や加工技術を飛び越えちゃってたんでしょうね。 もしデザイナーの設計どおりに、もう少しちゃんとしたモノ作りがしてあったとしたら、このデザインはきっと歴史に残ったでしょうに。
ただの小さなネジのくせに、なにやらちょっと教訓めいたものを感じさせてくれます。
これがもし真鍮で作ってあって、ぴかぴかのクロームメッキだったら、どうだろう。 あるいは焼きいれの硬いジュラルミンで仕上がっていたらどうだろう。
お気に入りのウィングナットを使うためだけに自転車をひとつ作ってしまう、なんてこともありえますね。 たとえば、シングルギアの散歩用自転車とか。
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Comments
そうです!とりあえずロックナットをウイングナットに換えてハンドルをドロップにしてみる!多くの方々と同じくここから私の自転車遍歴は始まったのでした。イヤー懐かしい話です。パピヨンと称するこのねじ、いろいろな形があって楽しいですよね。
私にとって「ユレーのウイングナット」は「サンプレの縦クイック」と並んで装備したいもののひとつでありました。ウイングナットは比較的簡単に手に入ったんですが、それを装着する自転車を作るのに二年かかりました。でもその甲斐あって走っているときに地面に映るフロントハブの影にうっとりしています。あ!また変なこといいました?
Posted by: Huret2100 | December 16, 2005 11:42 PM
そっか、フランコフィルならパピヨンと呼ぶべきなんですね。 走ると蝶々の影がついてくるんですね。 う~ん、いいなあ。 パピヨンの誘惑だあ (^^)
Posted by: Yow | December 18, 2005 10:35 AM